28 Feb 2012

「大地の子」

山崎豊子氏が日本人中国残留孤児の苦闘に満ちた人生を描いた「大地の子」。1995年にドラマ化され、当時まだ小学生だった私は主人公・陸一心の過酷な運命に涙したのを非常に印象深く覚えています。

大地の子〈1〉 (文春文庫)大地の子〈1〉 (文春文庫)
(1994/01)
山崎 豊子

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ストーリーは、日本人である主人公が中国で戦争孤児として育てられ、狂気的な文化大革命と冷酷な国家・軍隊、日中共同の製鉄所建設プロジェクトにおける葛藤、中国共産党の政権抗争に翻弄され、その過程で日本人であるが故の数々の迫害や差別を受けつつも、義父母や周囲の人間との絆によりたくましく生きていくというもの。

まず本書で何よりも驚くのは、著者の徹底した取材。解説によると、著者は3年間による現地取材において胡耀邦元総書記から取材協力を得、内蒙古自治区の労働改造所で囚人たちと畑を耕し、農村にホームステイし、戦争孤児や養父母の家を訪問し、製鉄所の建設現場へ泊まり込みまでしたとのこと。
取材が困難とされる中国の官僚的風土の中、これだけリアリティのある小説に仕上がったのは、著者の執念とも言える綿密な取材、勉強に因るものだと思う。主人公は実在の人物ではないとはいえ小説の内容は実際の戦争孤児たちの体験を繋ぎ合わせたものであり、戦争が如何に個人の運命を破壊するか、読む者に衝撃を与えます。

著者が述べているように、今日の日本の平和は彼らの様な孤児を戦後40年近くも見捨てておいた犠牲の上に成り立っている、ということは私たち日本人が眼を背けてはならない事実だと思います。

一人でも多くの方に読んで、感じて頂きたい一冊でした。